糸魚川翡翠工房 こたき

糸魚川翡翠工房 こたき

★糸魚川翡翠の形成

通常、岩石が変成される地下20kmから30kmは、温度が600℃前後の高温環境です。しかし、大陸プレートと海洋プレートがぶつかり合う「沈み込み帯」では「圧力は高いが温度が低い」という特殊な環境が生み出されます。圧力が約1万気圧という高さでありながらも、温度は200℃~300℃という低温が保たれている奇跡のような環境です。この高圧低温の環境において、翡翠(ジェダイト※)は形成されます。

糸魚川翡翠はこのような特殊な環境下でゆっくりと形成されました。限られた地形環境でのみ形成され、地表に露出される場所が極めて少ないことから、希少性の高い石です。

※翡翠(ジェダイト)の定義…ひすい輝石を85%以上含む岩石のこと。一般的には85%以上含む岩石のみが宝石とされる。ネフライトは全く異なる環境下で形成される。

日本を縦断する
「フォッサマグナ」
(大きな溝)

日本列島の真ん中には、大地のなかに「大きな溝」があります。
ユーラシア大陸から日本列島の大地が離れるプレートテクトニクスの過程で、何かしらの圧力がかかり2つに裂けました。その裂け目のことを「フォッサマグナ」(大きな溝)と言います。

フォッサマグナ

この「溝」を境目に、日本は東西に分かれています。「溝」というと細い切れ目を想像するかもしれませんが、実際はかなり幅がある大規模なものです。西側は新潟県の糸魚川から長野県・山梨県・静岡県を縦断する糸魚川・静岡構造線。東側は千葉県・埼玉県・群馬県・新潟県を縦断する柏崎・千葉構造線です。
日本列島をも割る巨大な大地の動きによって沈み込んだ部分の上に、長い年月をかけて新しい地層が積みあがっていきます。この新しい地層のエリアがフォッサマグナです。フォッサマグナの地質が2500万年前の新生代のものであるのに対し、これを挟む東西の地質は5億年以上前の中・古生代のものです。

フォッサマグナ

フォッサマグナの圧縮によってできた断層にマグマが貫入し、地下深くにある鉱物や翡翠を含む蛇紋岩が地表に上がりやすかったと考えられます。そのため、フォッサマグナの境目に位置する糸魚川市では、奇岩・奇石をはじめ、珍しい多くの鉱物を見ることができます。
大地の裂け目であるフォッサマグナの真上に位置する糸魚川の地質構造は、世界でも特異な存在です。その裂け目から、奇跡のような偶然が幾重にもかさなりあい、糸魚川翡翠は形成されました。厳しい環境下でありながら、活発な火山活動がもたらしてくれる自然の恵み豊かな糸魚川。世界に類を見ない糸魚川の地形は、2009年に日本初の世界ジオパークに認定されました。

ネフライトとの
形成・産地の違い

ジェード(ヒスイ)はその歴史的背景から、ジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)の2種類が現在の市場に流通しています。
世界中をみてもジェダイトは限られた場所でしか産出されません。代表的な産出場所は、ミャンマーのカチン州・中南米のグアテマラ。そして、日本の糸魚川です。
一方ネフライトはジェダイトが形成される半分の低圧力で、400℃~500℃程度の高温度帯で形成される角閃石です。角閃石は世界中で形成が可能な岩石で、産出量も豊富にあります。代表的な産出場所は、ロシアのシベリア地方・ニュージーランド・中国・台湾、そのほか中東やアフリカ大陸など、たくさんの場所で産出されます。

ジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)
jadeite(ジェダイト)とnephrite(ネフライト)の産出地の違い

古代、人々はきれいな緑の石を地域によって「ジェード」や「ネフライト」と名付け、混同していました。18世紀後半になり、ジェダイトとネフライトが全く別の鉱物であることがわかります。その後も市場ではこの2つの石を同じ「ジェード(ヒスイ)」として取引し続けました。現在でもネフライトを「翡翠」と表記して安価で取引されていることも多く、外国産の翡翠は、産出量の多い角閃石のネフライトである場合があります。

国産翡翠が復活する昭和よりも前、明治期に中国からの大量のネフライトが輸入されました。それをきっかけにして、軟らかい角閃石であるネフライトを『軟玉』、硬いジェダイトを『硬玉』として、混同しないように国内で名称をつけ区別していました。明治期の国内アンティーク品にネフライト製が多く見られる理由は、歴史の中にあるのです。

参考文献・URL